のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲が輝いているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。
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ドイツは原子力発電に反対しているイメージが強いが、実は国内では17基の原子力発電所を有し(ちなみに日本は54基)、電力消費全体の26%を占めている。
ただシュレーダー政権で環境政党の「緑の党」が政権入りした際、「現在稼働中の原子力発電が耐用年数の限界を迎えた際には改築を行うことなく廃止させる」との方針が打ち出されて以来、脱原発はドイツのエネルギー政策の主軸に据えられることになった。計算では2021~22年に原子力発電所を全廃し、完全な脱原発が実現されるという。
傍目で見ていてもあまり現実的な政策のようには思われないが、国民の原子力に対する忌避感は根強く、ある放送局の世論調査によれば国民の約3分の2がこの脱原発政策に賛成している(右はドイツ原発の配置図)。
CDU/CSUおよびSPDの現大連立政権も前政権の政策を引き継ぎ、連立合意書にも脱原発が明記されているため、この問題でメルケル首相のフリーハンドはない。
SPDは決して一枚岩ではないが、「脱原発」という点においては意見に大きな相違はない。しかしCDU/CSUには脱原発に懐疑的な意見が強く、原発推進派も存在する。 バランスの取り方が難しいメルケル首相は「運転期間の(2021~22年以降の)延長には賛成、大幅な原子力発電所の増設には反対。ただし具体的議論は2009年の総選挙の後。」というスタンスをとっている。「選挙の後」という発言がメルケル首相の微妙な政治的位置と苦心とを窺わせる。
こんな中、サミットに出かけたメルケル首相を追撃するようにSPDの院内総務(Fraktionschef、党首ではない)が「原子力発電所の運転期間を2030年まで延長する。その代わり原子力発電からの脱退を憲法に明記(!)すべきだ」と発言して波紋を呼んだ。国内党派的色彩を帯びた議論が再燃する中、折しも洞爺湖サミットで原油高を背景とした「原子力発電の積極的活用」を首脳宣言に書き込むか否かについて、米国の攻勢を受けドイツが全く孤立する形となっていたので、旅先のメルケル首相がサミットを機に政策転換を図るのではとの憶測も飛び交っていた。この問題が今回サミットでドイツメディアの最大の注目を集めたゆえんである。
結局メルケル首相は大連立の合意を守り通し、原子力部分に関する宣言文は
「我々は、気候変動とエネルギー安全保障上の懸念に取り組むための手段として、原子力計画への関心を示す国が増大していることを目の当たりにしている…」
云々という何とも妥協的な文案に落ち着くことになった。国内に政治的要因を抱えているだけに対処の難しい問題だったと思われるが、ここはメルケル首相の粘り勝ちと言ったところだろう。
先週のG8洞爺湖サミットはさすがにドイツでも大きく取り上げられていた。普段日本関連のニュースを目にする機会が少ないだけに、連日のようにTOYAKO発のニュースが新聞やテレビのトップを飾るのは日本人として悪い気はしなかった。
ただ今回のサミットを通じて日本への関心が高まったかというわけではなく、自分が探した範囲では特段北海道や福田政権関連の特集が組まれた様子はなかった。初日の夜に現地の特派員が「警備があまりに厳重で我々も柔軟に取材できない。雨のせいで景色もよく見えない。落胆している。」などと洞爺湖の印象を語っていたという具合で、残念ながら取材陣にもうまく北海道の魅力が伝わっていない様子で、この点残念に思う。日本側としてはもう少し環境というテーマと北海道のイメージをうまく結びつけるアイデアが必要だったのかもしれない。(右は床面のコンセントを屈んで見るメルケル首相と福田総理のツーショット。「日本流のお辞儀をするメルケル首相?」との見出しがつく。)
その環境問題はドイツ人にとっては非常に重要なテーマである。気候変動問題はここ1~2年で一気に国際社会のトップイシューに急浮上した感があるが、もちろんそのずっと前からドイツ人はこと環境問題に熱心であった。前年のハイリゲンダム・サミットのホスト国として、今回のサミットにどれだけの成果をつなげることができるのかがメルケル首相の主要な関心事項であり、メディアの関心もどれだけ気候変動問題での進展が得られるかという点に集まっていた観がある。
とりわけドイツの報道で目立ったのが原子力発電の位置づけであった。この話は現在の大連立政権の連立合意(Koalitionsvertrag)に関わる問題であり、ドイツ国内でも同時期に政治的な動きがあったため、大きな関心を集めた。
ドイツ人が議論好きだというのは決して偏見ではない。議論のために時間を投入することを惜しむことはなく、ドイツ語が中途半端な外国人が相手でも、繰り返し手を替え品を替え言葉を通じて自分の主張を理解させようとする。その粘り強さには時に自分のような日本人は辟易させられることが多い。徹底的に議論して論点をつぶし、曖昧さを排し、その上で妥協し、紙に落とす。しかる上で一気呵成に執行する。これがドイツ人の流儀である。
制定者たちがそこまで考えていたかどうかは不明だが、連立交渉、合意文書の作成、それに基づいた政権運営という政治制度は、ドイツ人の気質によくマッチしているように見える。5党制の下のドイツ政治の未来についても、議論を通じた交渉と妥協を何より得意とするドイツ人気質に鑑みれば、それほど悲観的になる必要はないのかもしれない。
ドイツ人のドイツ基本法に対する評価は概して非常に高い。もちろんこれは狭義の政治制度のみならず、強力な司法のチェック機能、戦う民主主義、連邦制など諸要素の総合的な評価によるものだが、衝撃的な敗戦と占領軍による分割統治という状況から発し、構造的に分権的な要素を内包している戦後ドイツ政治の中で、国家が政治的に分裂せず高度な安定性を確保しえたことに関しては、この政治制度が大きく貢献しているのは間違いない。
ドイツ基本法は一つの成功モデルとして、冷戦後の中東欧諸国をはじめ世界各国の憲法に多大な影響を与え、頻繁に参照・模倣されている。明確な設計思想とそれに起因する論理性とが、モデルとしての価値を高めているのであろう。
この基本法はドイツ人の気質に適合的である点を超えて、他国にも適用可能な一つの普遍的な民主主義のモデルを提示しているわけである。ドイツ人が誇りに思うのも無理はない。
歴史からの教訓、政治文化との整合性、明確な理念と設計。理念としての平和主義が突出している我が国の憲法は、現実に耐えうる一つの強靭な制度としての民主主義のモデルを、果たしてどこまで提示できているだろうか。その要たるべき議会政治の混沌とした現状が否応なく頭をよぎる。日本国憲法が他国に模範として導入されたという話は、寡聞にして聞かない。
前述したとおり、ドイツでは連邦議会議員の任期は通常4年であり、また連邦参議院は民選ではないので、日本に比べると国政選挙の機会は少ない。一方、この国では地方でキャリアを積んだ政治家がいきなり中央政界に閣僚や首相候補といったハイレベルで乗り込むことが多いので、16ある各州の議会政治の動向も大きく注目される。そのため州議会選挙も全国レベルで高い関心を集めることになる。
その中で今年2月末に行われたハンブルク州議会選挙は、連立という文脈から見ても非常に面白い結果となった。
ハンブルク(位置は右参照)は一つの市にすぎないが、法的には16ある連邦州の一つである。選挙では予測通り与党CDUが第一党の座を確保したが、単独多数に達することができなかった。一方で潜在的な連立パートナーであるFDPは4.8%の得票とわずかに5%に届かず議席を確保できず、代わりに左翼党が6.4%を獲得し進出に成功した。結果、多数与党の構築にはCDUがSPD、緑の党、左翼党のいずれかと連立を余儀なくされるという状況になった。
CDUにとり左翼党との連立は論外だが、緑の党との連立に関しては近年その可能性がクローズアップされているところであった。「CDUで経済、緑の党で環境」という組み合わせを求める声は世論調査でも意外と人気があったこともあり、結果、CDUはSPDとの大連立ではなく緑の党との交渉を選び、4月に連立合意が成立する。州レベルで初の黒緑(Schwarz-Grüne)連合の誕生であった。
この事件は今後のドイツ政治にとり大きな意味を持つ。というのは、従来CDU/CSUの連立パートナーはFDPに限られており、緑の党、FDP、場合によっては左翼党と多様な連立の選択肢を持つSPDと比べ、5党システムの下では構造的に不利な状況に置かれていたからである。
SPDの側はすでに州議会でSPDー左翼党の赤赤連合、それに緑の党を加えた赤赤緑連合(ベルリンなど)、SPDー緑の党ーFDPの信号連合(かつてのブレーメンなど)を実現させており、着実に連立のレパートリーを増やして来た経緯がある。
そんな中、今回の連立が順調な成果を上げれば、他州や連邦レベルでも緑の党とCDU/CSUの連立の可能性が出てくる。FDPも合わせたジャマイカ連合の実現も視野に入ってくる。その意味で今回の黒緑連合の成立はCDU/CSUの政治的選択肢が大幅に拡大したことを示しているのである。(右は連立合意書を手にする両党の州議会幹部。カバーが黒と緑の組み合わせになっている。)
ドイツは州政治の独立性が高いので、今回の事態がすぐに連邦レベルの大連立政権に波及するわけではない。しかし今後は選挙で多数を確保することのみならず、選挙後に有利な形で連立政権を構築する交渉力が一層要請されてくると思われる。選択肢が増えることは、方程式がより高次になり解が増大することと同義なのである。
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