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望雲録

のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲が輝いているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。

カテゴリー「社会・文化・価値観」の記事一覧

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勤勉なドイツ人?(1)

 日本人の間ではドイツ人は今でも「勤勉で仕事をきちんとする」というイメージが強い。以前引用したことがある電通調査でも"Dillegent and hardwork nature"の項目が高い数字を出している。ただ実際に生活してみると「結構いい加減ではないか」と思う場面は結構ある。少し例をあげてみよう。

 日本人がドイツに3か月以上滞在する場合にはビザが必要になる。これは日本で事前に入手していく必要はなく、入国後に滞在地の市役所に申請しにいくという制度になっている。
 このビザ発行の運用がかなりいい加減であるというのは、こちらに滞在している日本人のほぼ一致した見解である。手続きに必要な書類や証明書はもちろん在日ドイツ大使館HPをはじめ、各所にきちんと明記されているにも関わらず、担当者によって追加の書類を要求されることもあれば、必要なはずの書類を忘れているのにあっさりビザが下りることもあるのである。滞在期間も担当者のお手盛りの感が強く、滞在目的を根掘り葉掘り聞き出してぎりぎりまで切りつめた期間しか滞在許可を出さない担当者もいれば、1年単位で大雑把に許可を出す担当者もいる。
 私の友人は学生としてのビザを申請しようとしたのだが、担当者からある英語の書類の独訳を作成するように求められた。後日作成した独訳の文書を持って行くと別の担当者が現れ、「なぜ独訳を作成したのか?」と逆にいぶかしがられたという。彼が憤慨したのは言うまでもない。

 これはまた別の話だが、ドイツの大学に外国人が入学するためにはDSH試験というドイツ語試験に合格せねばならない。この試験は通常筆記と口頭の二部からなり、口頭試験では入学後所属する学部の履修内容に即したやりとりが行われる。私の時はテキストを一枚渡され、待合室で10分間それに目を通した後、試験官とその内容について議論するという形式だった。私は当初日本学部に入る予定だったので、当然そのテキストも日本学に関係する内容になるはずだったのだが、待合室に入ると担当者が「日本学のテキストは一枚しかないのだが、それはもう別の受験者が使っている。何か他の科目で読めるテキストはあるか」と言う。私は驚いた、というよりむしろいい加減さにあきれてしまったが、時間もなかったので結局政治学のテキストを読まされるはめになった。

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住居雑感(2)~IKEA雑感

 実際にドイツ家庭に踏み込む機会はあまりないので、現実の内装がどうなっているのかは伝聞に頼るしかない。ある古いドイツ人家庭にホームステイした友人によれば、いかにもと言ったイメージ通りの重厚な家具が立ち並び、カーテンやシーツもそれらの雰囲気に合わせて入念に選び抜かれている。そのためか、その友人は自分が持ち込んだ柄ものの毛布をベッドに広げることを許されなかったという。インテリアに注がれるドイツ人の並々ならぬ情熱が感じられる話である。
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 もちろんまだ腰の座っていない学生にはそのような家具に手を出す余裕はないわけで、自分も含め、一人暮らしの学生が圧倒的にお世話になっているのは、有名な北欧家具のIKEAである。1943年にingvar Kamprad というスウェーデン人によって創立され、現在では欧州を中心に世界35カ国に進出している世界最大級のインテリア関連企業であり、ドイツはその最大の市場である。
(右は同社のロゴと製品。同社HPより。)32947_PE096269_S4.jpg
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DSCF6532.JPG 個々の家具の洒脱なデザインもさることながら、創業以来、IKEAのコンセプトは家具を統一されたインテリアそのものとして提示することにあるという。実際IKEAの店舗は「モデルハウス」と呼ばれる郊外型の大店舗で、IKEA製品を組み合わせて作られたモデルルームを美術館のように回りながら商品を選ぶという形式になっている。目的の品にすぐに辿りつけるわけではないので迂遠なようだが、実際に回ってみるとこれが結構面白い。リビングや書斎、オフィス、キッチンなど多様な用途に即して調度された部屋はどれも個性豊かで、インテリアに対する眼が見開かれるような心地よい感覚を味わえる。
 客はこれらのモデルルームで気に入った製品のメモをとり、出口にある製品置きDSCF7062.JPG場から製品を自分でカートに乗せて運び出し、レジで精算した後車に積み込むという寸法である。製品自体は平たく梱包されていて車での輸送に適しており、組み立ても初心者でも簡単にできる。このシステムは輸送にかかる人件費を節減し、製品の大幅なコストダウンに繋がっているという。
 もちろん車を持っていない人はカタログで注文して自宅まで郵送してもらうことも可能である。このカタログは聖書、ハリー・ポッターシリーズに次いで世界第三位の発行部数を記録しているという。
 
 店舗内は若者のみならず、家族づれや壮年の夫婦も多く目についた。「家具は消費物である」とは同社のコンセプトだが、この企業はドイツ人の内装へのこだわりを新しい形でとらえることに成功した。ドイツの「重厚長大」な家具調度のあり方も大きな変化の波にさらされているのだろう。十年後にはドイツ家庭の風景も大きく様変わりしているかもしれない。
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 ちなみにIKEAはすでに日本にも進出をはじめ、今後数年間で大規模な出店攻勢を予定している。進出第一号である船橋店の開店日には大量の車が押しかけ、近隣道路が大渋滞に陥ったという。北欧家具のイメージは日本でもかなり高い。日本のインテリアが「IKEA化」される日もそう遠くないのかもしれない。家具もグローバル化の時代、ということだろうか。(上はIKEA船橋店。Wikipediaより。)

住居雑感(1)

 10月も半ばになると目に見えて日差しが低くなり、朝夕の冷え込みも少しずつ厳しくなる。先週末には南部で早くも雪が降ったらしい。夏場は大通りにテーブルを出していたカフェやビア・ガーデンも屋内に引き上げ、街全体も少しずつ静けさを増して、いよいよ冬の入り口をくぐったという実感が湧いてくる。
 
 それでもドイツの屋内は過ごしやすい。基本的にドイツの建物は厳しい冬を念頭に建てられていると言ってよいだろう。多くのアパートはセントラル・ヒーティングが備え付けられ、建物全体の暖房が行き届くようになっており、何重にも塗り重ねられた壁は断熱効果が高く、熱が部屋から逃げにくい構造になっている。最近では夏場にかなり気温が上昇するので、屋内で暑さをしのぐのは一苦労(通常冷房は備えつけられていない)なのだが、冬になると断然快適さが増す。寒さが厳しくなるにつれ当然自宅で過ごす時間も長くなるわけで、これは恐らくドイツ人が屋内の調度に並々ならぬこだわりを持っている理由の一つだと思う。
 
 衣食住の中でドイツ人は「住」の比重が圧倒的に高いと言われる。実際ドイツの街中を歩いてみても、家具店や寝具店、照明関係の店が目立って多いように思われる。デパートでもこれらインテリア関係のフロアは常に大きな面積を占めている。とりわけ台所への関心は高いようで、フライパンや鍋、包丁など何気ない台所用品が驚くほど豊富な品ぞろえで売り場を埋めていることもしばしばである。
「台所が汚れるので料理はしません」
というドイツ人主婦の話を聞いたことがあるが、これも笑い話ではなく、どうやら現実にそうしたドイツ家庭が結構な数存在するようである。ドイツ人は概してきれい好きだと思うが、特にピカピカと光るものや透明なものを常に曇りのない状態にしておきたいというメンタリティーは強いようで、そう言えばこの国の窓ガラスは一般住宅のそれもショーウィンドウもいつもきれいに磨かれている。

山の原風景

 日本語を勉強しているドイツ人との交流会で、「日本を訪れた時に受けたカルチャー・ショック」が話題になった。皆めいめいの意見を述べ、それぞれに興味深かったが、ある若いドイツ人の素朴な発言に、私は盲点を鋭く突かれた思いがした。

 「日本はどこにいっても山がある。それが自分には大変驚きだった。」

93FA967B92n907D.jpg 日本は島国であるが、同時に山国である。国土の75%を山地が占め、山に迫られた狭い盆地、平地を最大限に活用すべく、丹精をこめて生産性の高い耕地田地を築き上げ、その傍に肩を寄せ合わせながら文明を形成してきた歴史がある。実際日本では平地面積に比して不釣り合いに巨大な人口を養うため、特に農村において涙ぐましい努力が重ねられてきた。高知檮原町の石垣造りの千枚田や、新潟亀田郷の干拓にまつわる風景はその証左である(この点については司馬遼太郎『街道をゆく9』『同27』が面白い)。自分の出身地は播州平野になるが、平野と言ってもつまりは山と海のはざまで、北を臨めば山々が迫り、南からは今にも汐のかおりが漂ってきそうな、そんな慎ましさ、窮屈さがあった。多かれ少なかれ、日本の村落の大多数はこうした物理的、精神的な空間の制約の下に成立したといってよいだろう。

523248702_97f1650706.jpg どの民族にもおそらくその固有の「原風景」というものがあると思うが、われわれ日本人にとっての典型的な原風景とは、決して地平線果てなく続く平原ではない。峻険すぎない青々とした山あいに清らかな小川が流れ、その脇をうるわしく手入れされた田が彩るなかに、ところどころ茅葺屋根の農家が点在している、そういうイメージだと思う。山というものを抜きにした原風景というのは、ちょっと描けないのではなかろうか。

 はっきりとした例外として真っ先に頭に浮かぶのが北海道で、おそらく日本で山のないまともな地平116858227_b907bd4a3a.jpg線を日常的に眺めることのできる唯一の地域であろう。そしてよく言われるようにこのような景観は非常に「西欧的」なわけである。休日などドイツの都市の郊外に出かけてみれば、1時間も経たないうちに市街が途切れ、なだらかな波を描く広大な牧草地と麦畑、そして森が続く。延々と続く。民家や集落は途切れ途切れ現われては消える。しかし視界の上半分には常に青い空が開けており、それが丘の稜線や教会の尖塔とはっきりとした境界を形づくっているわけで、背景として山らしい山が登場するのは南部や中部の一部の山間部に限られる。実際、ドイツは国土の85%が平野部なのである。

90f3fe7a.jpeg これがドイツ人にとっての典型的な原風景なのかも知れないーそう思ったとき、日独の文明の相違がくっきりと際立ってくるように思えた。とりわけ、日本という文明の特殊さが思われた。広大なフロンティアや圧倒的な自然の存在感に支配されていない原風景ーこれは日本人の精神性の重要な背景となっている要素ではなかろうか。世界的に見ても、こうしたなだらかな山々によって縮減された原風景を脳裏に焼きつけている民族はそれほど多くはないと思われる。

 ところで日本にはもう一つ例外と言いうる地域がある。関東平野である。現在の東京で生活していて山の存在を感じることはまずない。別のドイツ人はこう語った。

「日本につくと空港から東京の中心部までずっと家があってビルが建っていた。それが驚きだった。」
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 関東平野はその唯一例外的な広大さゆえに、日本のあらゆる活力が行き先の失った濁流のように流れ込み集中し凝縮された地域となっている。こちらは山国日本のより物理的な本質である。いずれにせよ、アルプスの果てなき長大な裾野の上に、森と草原と空の極みを恣にする民族には、当然理解に多少の言葉を要することになろう。

色と光(2)

 日本ではこのようなラディカルな色使いの事物が一般市民の日常生活に大量に配置されていることは、まずないと言ってよいだろう(時折輸入品としてもの珍しさの故に一定の地位を獲得することはあろうが)。この国では繊細な日本人なら発狂してしまうのではないかと思えるほど、色に対する観念が根本的に異なるように思われるのである。

 それでも時間というのは大したもので、当初は違和感を覚えたこの色使いも、3か月も住んでいるうちにそれほど気にならなくなってきた。むしろ秋口に差し掛かり天候が崩れがちな日が続いたりした時などは、こうした原色の刺激が目に入ることで神経が活性化され、ともすれば沈みがちなテンションが高められるように感ぜられることもしばしばである。なるほど日本の蒸し暑く厳しい夏の日差しを想像すれば、こうした原色は目にうるさくて仕方ないだろうと思うが、暗く長い冬を過ごす北欧の人々にとっては、色の与える刺激は想像以上に積極的な意味を持っているのかもしれない。

kand13.jpg 私はドイツと日本しか知らない人間なので、他の国と比較することはできないが、この色彩感覚の違いを最も端的に説明できるのはやはり光という絶対的な気候条件ではないかと思う。
 「青騎士」の理論的指導者であったカンディンスキーは、その著書『芸術における精神的なものについて』の中で「形式と色彩の自立、物自体かkandinsky_autumn-in-bavaria.jpgらの独立」を掲げていた。対象から離れて人間の精神を刺激するものは何かを突き詰めた時、ロシア出身のこの画家が光、そしてその最もラディカルな表現である原色(それも三原色)の効果に着目したことは想像に難くない(左、右は彼の作品)。


 あまりに短絡的な推察にすぎるかもしれないが、こうした芸術が生まれ広く受け入れられる土壌には、この地域の人々の光というものに対する深い憧憬があるのではないか、と思うのである。光というものがもたらす価値観の相違は、想像以上に大きなものがあるのではないかと思っている。

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HN:
Ein Japaner
性別:
男性
職業:
趣味:
読書、旅行
自己紹介:
三度の飯より政治談議が好きな30間近の不平分子。播州の片田舎出身。司馬遼太郎の熱狂的愛読者で歴史好き。ドイツ滞在経験があり、大のビール党。
[12/16 abuja]
[02/16 einjapaner]
[02/09 支那通見習]
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