実際にドイツ家庭に踏み込む機会はあまりないので、現実の内装がどうなっているのかは伝聞に頼るしかない。ある古いドイツ人家庭にホームステイした友人によれば、いかにもと言ったイメージ通りの重厚な家具が立ち並び、カーテンやシーツもそれらの雰囲気に合わせて入念に選び抜かれている。そのためか、その友人は自分が持ち込んだ柄ものの毛布をベッドに広げることを許されなかったという。インテリアに注がれるドイツ人の並々ならぬ情熱が感じられる話である。
もちろんまだ腰の座っていない学生にはそのような家具に手を出す余裕はないわけで、自分も含め、一人暮らしの学生が圧倒的にお世話になっているのは、有名な北欧家具のIKEAである。1943年にingvar Kamprad というスウェーデン人によって創立され、現在では欧州を中心に世界35カ国に進出している世界最大級のインテリア関連企業であり、ドイツはその最大の市場である。
(右は同社のロゴと製品。同社HPより。)
個々の家具の洒脱なデザインもさることながら、創業以来、IKEAのコンセプトは家具を統一されたインテリアそのものとして提示することにあるという。実際IKEAの店舗は「モデルハウス」と呼ばれる郊外型の大店舗で、IKEA製品を組み合わせて作られたモデルルームを美術館のように回りながら商品を選ぶという形式になっている。目的の品にすぐに辿りつけるわけではないので迂遠なようだが、実際に回ってみるとこれが結構面白い。リビングや書斎、オフィス、キッチンなど多様な用途に即して調度された部屋はどれも個性豊かで、インテリアに対する眼が見開かれるような心地よい感覚を味わえる。
客はこれらのモデルルームで気に入った製品のメモをとり、出口にある製品置き場から製品を自分でカートに乗せて運び出し、レジで精算した後車に積み込むという寸法である。製品自体は平たく梱包されていて車での輸送に適しており、組み立ても初心者でも簡単にできる。このシステムは輸送にかかる人件費を節減し、製品の大幅なコストダウンに繋がっているという。
もちろん車を持っていない人はカタログで注文して自宅まで郵送してもらうことも可能である。このカタログは聖書、ハリー・ポッターシリーズに次いで世界第三位の発行部数を記録しているという。
店舗内は若者のみならず、家族づれや壮年の夫婦も多く目についた。「家具は消費物である」とは同社のコンセプトだが、この企業はドイツ人の内装へのこだわりを新しい形でとらえることに成功した。ドイツの「重厚長大」な家具調度のあり方も大きな変化の波にさらされているのだろう。十年後にはドイツ家庭の風景も大きく様変わりしているかもしれない。
ちなみにIKEAはすでに日本にも進出をはじめ、今後数年間で大規模な出店攻勢を予定している。進出第一号である船橋店の開店日には大量の車が押しかけ、近隣道路が大渋滞に陥ったという。北欧家具のイメージは日本でもかなり高い。日本のインテリアが「IKEA化」される日もそう遠くないのかもしれない。家具もグローバル化の時代、ということだろうか。(上はIKEA船橋店。Wikipediaより。)
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