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望雲録

のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲が輝いているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。

カテゴリー「社会・文化・価値観」の記事一覧

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色と光(1)

 ドイツの絵画、というとピンと来ない人も多いだろう。実際私もドイツ出身の画家というとそれほど名前が上がらない。誰しもが知っているのはせいぜい肖像画で有名なデューラーくらいで、ルネサンス以来華やかな歴史をつづってきたイタリアやフランス、オランダとは比べるべくもない、というのが一般的な認識ではないだろうか。

 右の絵を見てほしい。原色をばらばらと組み合わせた背景の前に深い青味がかmarc-franz-blaues-pferd-1-8700407.jpgった一頭の馬が力強く地に足を張っている。これは「青騎士」と呼ばれる絵画集団の主要メンバー、マルクというドイツ人画家の手による作品である。この「青騎士」は20世紀初頭にミュンヘンを拠点に活躍した芸術家グループで、彼らの活動は表現主義(Expressionismus)と呼ばれる芸術刷新運動の一大中心となり、絵画のみならず映画や音楽などあらゆる領域で現代芸術進展に大きく貢献したと言われる。

 断っておけば、私の絵に対する感性はせいぜい20世紀初頭どまりで、これ以降の時代の芸術をどうこう言うだけのセンスは持ち合わせていない。その上であえて述べるのならば、私はこの「青騎士」のメンバーの絵を見たとき、美しさというより、原色の組み合わせが生み出す神経を直接突き刺すような感覚に翻弄された。一言でいえば「刺激的」なのである。美的な感動や人間的な情念の世界を飛び越えて、動物的な本能に直接訴えかけられるような、少し危うい感覚を覚えたのである。

 こうした色使いは、前述の絵画よりももっと工業機械的な形で、現在のドイツ社会に広く「クール」で「モダン」なものとして受け入れられているように思われる。ドイツの街中では原色を目にする機会が非常に多い。それも、今にもニスの匂いが漂ってきそうな真っさらな原色の組み合わせが目に付く。

 ドイツ一売れている独独辞典の色が黄色と青の組み合わせだったり、地下鉄のプラットホームがまるごとオレンジだったり、書店の本棚が青と緑の組み合わせだったり、大学の構内が緑とオレンジだったり、ともかくこの国の人々は原色をべったりと使い組み合わせることにためらいがない。とりわけ、赤、青、黄、緑、オレンジ、ピンクなどの明るい色を好んで使う傾向があるようである。
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 「犬と子供のしつけはドイツ人に任せろ」という言葉がある。ドイツ人が犬好きでしかもしつけ上手だというのは古典的なKlischee(ステレオタイプ)だが、この国で暮らしている実感としてはあながち的外れではない。

DSCF6148.JPG ドイツでは市街地でもよく犬を連れて散歩をしている人を見かける。品種はシェパードやレトリバーなど大型犬からスピッツやチワワのような小型犬までさまざまで、日本で馴染みのあるものも多い。紐をつけていないこともしばしばだが、犬は道端に失敬することもなく、唯々諾々として主人に従って歩いてく。そのまま路面電車やレストランに入っていくことも珍しくない。

 この国では犬の社会的地位は高い。電車やバスなどの公共交通機関では大抵犬の同乗が認められている。レストランやスーパーなどにも問題なく入れる。ホテルですらこの点には注意を払っており、多くの場合動物の持ち込み可否はHP等でもわかりやすい箇所に明記されている。

 だが並の日本犬ではこうした待遇は認めらDSCF6211.JPGれないだろう。この国の犬は驚異的に従順で大人しく、混雑した電車の中でも他人の匂いを嗅いだり主人にじゃれついたりすることはない。ましてや吠えることなど決してなく、じっと床に伏せたまま降車駅まで静かに佇んでいる。ドイツに入国してから無数に犬を見かけたが、まだ一度も人に吠えかかる姿を見かけたことはない。犬が日常生活のルールに溶け込み、人間の妨げになることがないのである。

 私はこの国に来てから犬という動物に対するイメージが大きく変わった気がする。同じ動物であるのになぜ国によりここまで性質が異なるのか。この違いはおそらく血統的な要因やしつけだけによるものではないだろう。社会全体が醸し出す漠然とした「空気」というものが大きな役割を果たしているように感ぜられる。日本の犬をドイツに持ち込んだらどうなるのか、その逆はどうか、少し興味がわく。

DSCF6213.JPG 考えてみれば動物の性質が全世界共通である理由はどこにもない。人間に民族性があり文化があって地域ごとに気質の違いがあるのと同じように、犬にも(品種による相違とは別に)文化があり地域ごとに気質の相違があったとしても、何ら不思議な話ではない。

 ちなみに今のところ街中で猫を見かけたことはない。これだけ犬と人の関係が密接な国では、つけ入る隙はないということだろうか。


徴兵制(2)

 市民奉仕はBAZ(Bundesamt fur den Zivildienst, 市民奉仕局)という行政機関が管理している。同局のホームページによると2006年にはドイツ全土で約61000人の青年が市民奉仕活動に従事したという。一方でドイツ連邦軍の統計によるとここ5年間で兵役に従事したのは45600人で、これを単純に年ごとに割ると約9100人となる。毎年7万人もの若い労働力が調達されていることになる。

 こうした状況の中、ドイツ国内では年々廃止論が高まっているという。特に戦争が高度化し、連邦軍の任務が多様化するにつれ、わずか9か月の兵役従事者は軍事的にはあまり意味のない存在となってしまっている。こうした事情から軍当局は職業軍人制度の導入を目指しており、徴兵制の廃止に積極的である。ただしその際に市民奉仕義務によって大きな労働力を賄われている社会福祉分野をどう手当てするかが大きな課題となっている。憲法を改正し、男女ともに兵役の代わりに市民奉仕を義務付ければよいとする議論もある。

 憲法上の義務、戦争の高度化、社会福祉分野への影響。ドイツの徴兵制を巡る議論には複雑な視点が交錯している。それは何よりこ
の制度が単なる軍事上の制度を超えた社会システムであることを示している。思えば徴兵制の成立も「国民」の形成という大きな社会史的背景を抱えていた。古典的国民国家の残滓としての徴兵制f368ed84jpegがいかなる議論にさらされ、どのような変貌を遂げていくのか。それは現代ドイツ社会の潮流そのものを示しているようにも思える。は市民奉仕活動に従事するドイツ人青年。BAZHPより。)

徴兵制(1)

 自分が通っている語学学校ではZivilsと呼ばれる20歳前後の若者たちが文化プログラムを担当している。彼らの勤務する部屋は大学のサークルのような雰囲気で、いつも和やかな空気が漂っている。

とはいえ、彼らはアルバイトをしているわけではない。彼らの呼称はZivildienst(市民奉仕)から来ており、その対義語はWehrdienst、つまり兵役のことである。つまり語学学校のZivilsは、良心的兵役拒否が認められたため、その代替服務としてここで市民奉仕活動に従事しているのである。こんなところで徴兵制の実態を目にすることになるとは考えておらず、私はこの制度が如何にこの国の人々の社会生活に密着しているかを強く実感させられることになった。

 ドイツでは今でも徴兵制が生きている。連邦共和国基本法12a条に定められた憲法上の義務であり、全ての18歳以上の成人男性に適用される。女性に義務はない。期間は9か月、有名な「良心的兵役拒否」の規定により、良心的理由から兵役に従事できない場合には代替服務、すなわち社会奉仕活動に従事することが可能である。社会奉仕活動の期間は同じく9か月であり、分野は介護・福祉施設での活529bcbadjpeg動に加え、環境保護、幼稚園など教育分野、さらには市役所の仕事やユースホステルの管理まで多岐にわたる。(左は独国防軍作成の兵役に関する広報動画の一部。同HPより。)

 
 現在では徴兵制は冷戦期の名残としての側面が強くなっている。冷戦終了後の連邦軍縮小に伴い、現在では実際に兵役に従事するのは対象層の15%程度であるという。しかし市民奉仕はあくまで代替手段と位置付けられているにすぎない。たとえば徴兵検査の結果、身体的理由から兵役に従事できないとされた者は市民奉仕への従事義f390ca69jpeg務もなくなる
。また兵役は男性のみの義務であるから、女性には市民奉仕義務も存在しない(右は徴兵検査の様子。独国防軍HPより。)


 すでに実体としては市民奉仕の方が社会的にも経済的にも重要な役割を果たしているにも関わらず、制度としての徴兵制が頑健な形で存続しているのである。

夏時間

 この季節ドイツは日照時間が長い。ベルリンは緯度で言うと宗谷岬より更に北に位置しているのだから当然だが、朝は5時前に夜が白みはじめ、夜は22時前まで明るい。自分が異国にいるということを最も直観的に実感させられる事象である。
 単純に考えて一日の約3分の2が昼ということになる。ドイツでは夏に肌をさらして所構わず日光浴をする市民の姿をよく見かけるが、冬にはこの昼夜時間が逆転することを考えると、太陽の光を恋い焦がれる気持も理解できる。

 ただ5時から22時というのは日本で言えば4時から21時ということである。ドイツはSommerzeit(サマータイム、夏時間)の国である。

32680239png 左の図(ウィキペディアから拝借)では、青が現在導入中の国、オレンジがかつて導入したことのある国(日本でも戦後直後に一時導入されていた)、赤が導入されたことのない国という区分である。世界の広範な地域に浸透しており、特に高緯度の地域で導入されている例が多い。欧州独自の制度というわけではないということがよく分かる。
この制度の構想自体は古く、すでに18世紀頃にはアイデアが出ていたようである。ドイツは政府レベルで初めてこの制度を導入した国であり、当初第一次大戦下の1916年から終戦までの3年間にわたり実施された。目的は単純で、日照時間の増加に合わせて労働時間を増加させ、総力戦に資することであった。同様の理由で第二次大戦中も採用している。あまり名誉な話ではない。
 70年代の石油危機をへて、この制度は「日照時間の有効利用によるエネルギー節約」を理由として再び欧州各国で導入され始め、ドイツもそれにならった。EU統合の流れの中で、現在ではMESZ(Mitteleuropäische Sommerzeit、中央欧州夏時間)の呼称でEU全体で統一的に運用されている。3月の最終日曜日から10月の最終日曜日まで、1時間時計の針が進む。夏時間と言いながら夏限定ではなく、実に7か月にわたる。
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 ドイツの人々は表向き夏時間の利点を享受しているように見える。ただ明るい夏の夜を積極的に楽しむという発想は夏時間から生まれるわけではない。それは日照時間と気候の循環に根差した、より基層的な文化意識から生じるものだと思う。日本でも再び夏時間導入をめぐる議論が持ち上がっているが、この点は留意しておく必要があるだろう。日本人にとって夏の西陽はあまり有難いものではないのだから。
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HN:
Ein Japaner
性別:
男性
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趣味:
読書、旅行
自己紹介:
三度の飯より政治談議が好きな30間近の不平分子。播州の片田舎出身。司馬遼太郎の熱狂的愛読者で歴史好き。ドイツ滞在経験があり、大のビール党。
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