自分が通っている語学学校ではZivilsと呼ばれる20歳前後の若者たちが文化プログラムを担当している。彼らの勤務する部屋は大学のサークルのような雰囲気で、いつも和やかな空気が漂っている。
とはいえ、彼らはアルバイトをしているわけではない。彼らの呼称はZivildienst(市民奉仕)から来ており、その対義語はWehrdienst、つまり兵役のことである。つまり語学学校のZivilsは、良心的兵役拒否が認められたため、その代替服務としてここで市民奉仕活動に従事しているのである。こんなところで徴兵制の実態を目にすることになるとは考えておらず、私はこの制度が如何にこの国の人々の社会生活に密着しているかを強く実感させられることになった。
ドイツでは今でも徴兵制が生きている。連邦共和国基本法12a条に定められた憲法上の義務であり、全ての18歳以上の成人男性に適用される。女性に義務はない。期間は9か月、有名な「良心的兵役拒否」の規定により、良心的理由から兵役に従事できない場合には代替服務、すなわち社会奉仕活動に従事することが可能である。社会奉仕活動の期間は同じく9か月であり、分野は介護・福祉施設での活動に加え、環境保護、幼稚園など教育分野、さらには市役所の仕事やユースホステルの管理まで多岐にわたる。(左は独国防軍作成の兵役に関する広報動画の一部。同HPより。)
現在では徴兵制は冷戦期の名残としての側面が強くなっている。冷戦終了後の連邦軍縮小に伴い、現在では実際に兵役に従事するのは対象層の15%程度であるという。しかし市民奉仕はあくまで代替手段と位置付けられているにすぎない。たとえば徴兵検査の結果、身体的理由から兵役に従事できないとされた者は市民奉仕への従事義務もなくなる。また兵役は男性のみの義務であるから、女性には市民奉仕義務も存在しない(右は徴兵検査の様子。独国防軍HPより。)
すでに実体としては市民奉仕の方が社会的にも経済的にも重要な役割を果たしているにも関わらず、制度としての徴兵制が頑健な形で存続しているのである。 PR
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