この季節ドイツは日照時間が長い。ベルリンは緯度で言うと宗谷岬より更に北に位置しているのだから当然だが、朝は5時前に夜が白みはじめ、夜は22時前まで明るい。自分が異国にいるということを最も直観的に実感させられる事象である。
単純に考えて一日の約3分の2が昼ということになる。ドイツでは夏に肌をさらして所構わず日光浴をする市民の姿をよく見かけるが、冬にはこの昼夜時間が逆転することを考えると、太陽の光を恋い焦がれる気持も理解できる。
ただ5時から22時というのは日本で言えば4時から21時ということである。ドイツはSommerzeit(サマータイム、夏時間)の国である。
左の図(ウィキペディアから拝借)では、青が現在導入中の国、オレンジがかつて導入したことのある国(日本でも戦後直後に一時導入されていた)、赤が導入されたことのない国という区分である。世界の広範な地域に浸透しており、特に高緯度の地域で導入されている例が多い。欧州独自の制度というわけではないということがよく分かる。
この制度の構想自体は古く、すでに18世紀頃にはアイデアが出ていたようである。ドイツは政府レベルで初めてこの制度を導入した国であり、当初第一次大戦下の1916年から終戦までの3年間にわたり実施された。目的は単純で、日照時間の増加に合わせて労働時間を増加させ、総力戦に資することであった。同様の理由で第二次大戦中も採用している。あまり名誉な話ではない。
70年代の石油危機をへて、この制度は「日照時間の有効利用によるエネルギー節約」を理由として再び欧州各国で導入され始め、ドイツもそれにならった。EU統合の流れの中で、現在ではMESZ(Mitteleuropäische Sommerzeit、中央欧州夏時間)の呼称でEU全体で統一的に運用されている。3月の最終日曜日から10月の最終日曜日まで、1時間時計の針が進む。夏時間と言いながら夏限定ではなく、実に7か月にわたる。
ドイツの人々は表向き夏時間の利点を享受しているように見える。ただ明るい夏の夜を積極的に楽しむという発想は夏時間から生まれるわけではない。それは日照時間と気候の循環に根差した、より基層的な文化意識から生じるものだと思う。日本でも再び夏時間導入をめぐる議論が持ち上がっているが、この点は留意しておく必要があるだろう。日本人にとって夏の西陽はあまり有難いものではないのだから。PR
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