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望雲録

のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲が輝いているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。

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金融危機とドイツ政府の対応(2)

 第二に興味深いのは連邦政府と州政府、そしてEUとの関係である。

 現代のドイツ政治の特徴としてその多次元構造(Mehrebenensystem)がしばしば指摘される。ごく単純化して言えば「現在のドイツ政治は連邦政府に加え、それ以外の次元(具体的には州とEU)の立法・行政主体の意図と行動が複雑に絡まり合う中で紡ぎだされる産物である」といったところか。

290px-Bundesrat-A.jpg連邦制国家であるドイツには16の州が存在する。それぞれが独自の憲法と内閣を持ち、立法・行政双方においてかなりの独自性を持ち、州政府と連邦政府の利害調整はあらゆる政策において常に避けられない焦点となっている。とりわけ行政分野の細分化・専門化とともに州政府と連邦政府の役割分担は極めて複雑かつ不透明なものになっているので、現在では多くの法律が「州関連事項」として連邦参議院(Bundesrat、左)による可決を要するのが通例である。 

 ちなみにこの連邦参議院は正確には「議院」ではなく(個人的には誤訳ではと思っている)、州政府から派遣された各州の代表者が連邦議会で採決された州関連事項を含む法案の採決を行う、いわば非公選の補助的な立法機関である。各州の規模や重要度を勘案して票数が割り当てられている。

 今回の金融危機に際して連邦政府が主導した様々な救済法案も、当然ながら州merkel444_v-mittel4x3.jpgに関わる事項を多数含んでいたために、各州との利害調整が一つの焦点となった。10月の金融機関救済法案に際しては、4800億ユーロの準備金の負担割り当て(連邦65%、州35%)、救済措置発動後に発生する利益損失勘定の負担割合、意思決定への参加をめぐって連邦と州の対立が先鋭化し、連邦参議院での採決を前にしてメルケル首相自ら裁定に動き出す一幕があった(右は調停後に記者会見を行うメルケル首相とヘッセン州ローランド・コッホ首相。)。

 さらに12月に成立した景気対策のための歳出法案に際しても同じく財政負担の分担(州61%、連邦39%)について州側からの不満が噴出し、連邦参議院での否決が危ぶまれる場面があった。 

 EUに関しては加盟国において今やEUの関与がない行政領域は存在しないという様相を呈している。以前触れたことのある通り、現在のEUは事実上独自の立法機能を有しており、それは加盟国内において置換立法なしに直接効を有する。加えてEUの中核的機関であるEU委員会は加盟国政府の動向がEU条約・法に違反していないかどうかを監視しており、しばしば名指しで加盟国政府に「指令」を出すことで状況の改善を求めることがある。

 今回の金融救済法案に関してもベルリンとブリュッセルの間でひと悶着があった。同法案の適用を申請したコメルツバンク(Commerzbank、ドイツ第二位の銀行)に対し、連邦政府が利率5.5%-8.5%で総額82億ユーロの資金提供を行う旨決定したところ、EU委員会から「この利率の低さはEUの市場競争原則に反する可能性がある。」との指摘がなされた。そもそも委員会はこの金融救済法案そのものを審査した上でゴーサインを出していたので、当然ドイツ側は「話が違う」と反発する。11月の初旬からくすぶり始めたこの問題、原因は金融救済法案の細目に関する認識の相違ということだったらしいが、最終的に12月頭にEU側が利子率基準を緩和することで妥協が成立した。実に一か月に渡って救済案が棚上げにされていたわけで、EU委員会の影響力を感じさせるには十分の出来事だった。

38381-Sarkozy.jpg もちろん、今回のように大きな危機に際してはこうした個別案件の細目事項のみが問題になるわけではなく、トップレベルでの首脳会議を通じたEU全体としての方針が大所高所から議論される。現在のEU議長はフランスが務めているが、金融危機以降サルコジ大統領がEU代表の立場で紙上を賑わすことが多い。

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三度の飯より政治談議が好きな30間近の不平分子。播州の片田舎出身。司馬遼太郎の熱狂的愛読者で歴史好き。ドイツ滞在経験があり、大のビール党。
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