のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲が輝いているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。
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早くも年の瀬だが、この夏以降のドイツ最大のニュースは、やはり何と言っても金融危機関連の話題であった。まだまだ学生風情が不景気を体感できるほど深刻化化しているわけではないが、メディアの報道という点では今回の景気悪化に対するドイツ官民の危機感は極めて強いように見える。10月にかけて米国への投資を焦げ付かせて支払不能の危機に瀕している金融機関が徐々に顕在化し、11月に入る頃になるとドイツの誇りたる自動車産業を中心に、実体経済においても大企業の経営難現実のものになり始めた。今回の危機を「戦後最大の不況」と称する専門家も出てきており、先行きの見通しは暗い。こうした苦境に対するドイツ政府の対応は多岐にわたるが、ここでは個々の政策の詳細に立ち入ることはせず、この国の経済及び経済政策の特徴を理解する上で興味深いと思われる点をいくつか取り上げてみたい。
まず第一に、ドイツも他の大陸欧州の諸国家の例に違わず、今回の危機に際して基本的に「政府の市場への介入」という行為に対する本能的な躊躇というものがあまり感じられない、ということである。第二次大戦後のアデナウアー政権で長期にわたり経済大臣をつとめ、ドイツの戦後復興を軌道に乗せたルートヴィッヒ・エアハルト(Ludwig Wilhelm Erhard、のち連邦首相。右) という人物がいる。彼は日本で言えばさながら池田勇人といったイメージの人物だが、このエアハルトが提唱したとされる「社会的市場経済(Sozialmarktwirtschaft)」という経済概念が、現在に至るまでいわばドイツの経済政策上の国是として引き継がれてきている。内容自体は別段特殊なものではなく、市場万能主義と管理経済の中間を目指すという、現代の言葉で言うところの「第三の道」的な経済政策と考えてよい。ただ私の見る限り、「政府の市場介入は当然」という側面ばかりが独り歩きして、市場介入が自由市場の効率性をどれくらい侵害するのかを入念に検討するといった、デリケートな議論はあまりなされていない。
とりわけ実際の施策で特徴的なのは「雇用の安定」や「失業対策」に対する敏感さである。ドイツでは労働組合が現在でも非常に強力な力を誇っていることは以前紹介したが、経済政策を語る際、政治家やマスコミが第一に強調するのは「ドイツ人の職を守る」ことで、経済成長や内需拡大といった政策目標は、少なくともレトリックの面ではやや優先度が落ちるようである。こと雇用の話になると政府は成り振り構わずかなり個別具体的なレベルにまで市場に介入していくのがドイツ流である。
この「社会経済市場経済」の理念は今回の危機でも強調され、「英米流の市場万能主義の限界が明らかになった。我々が戦後60年間守り通してきた路線の正しさが証明された。」という、日本でも何となくあるようなアメリカ流の市場主義に対するルサンチマン、「ザマアミロ」といった感じの論調は、特に秋口あたりによくお目にかかったように記憶している。いざ実際に不況が国内に浸透してくると、さすがにそんなことで溜飲を下げている余裕はなくなったようだが。
ともかくもドイツは今回の金融危機に対して最も早期かつ大胆に市場介入した国の一つである。10月はじめには「ドイツ国民の全預金の保証」を宣言し、翌週には準備額およそ4800億ユーロに上る金融機関救済法案を可決し、国民の不安の解消と危機の鎮静化に努めている。事情は大幅に異なるとは言え、日本政府が小泉政権の登場まで10年の長きにわたり思いきった金融機関への公的資金注入に踏み切れなかった事を考えると、経済政策上必要と判断すれば国民の税金を民間金融の救済のために質に入れることにも全く躊躇しない、ドイツ政府首脳の決断力と実行力には、目を見張るものがあると言わざるを得ない。(左は金融危機対策を発表するメルケル首相とシュタインブリュック(Steinbrück)財務大臣。)
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