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望雲録

のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲が輝いているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。

カテゴリー「政治」の記事一覧

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EUの存在感(3)

 日本ではユーロの話はよく知られているが、実際にEUが社会経済の領域において市井の庶民の生活に至るまで実態的な影響を及ぼしていることはあまり実感として伝わっていないように思う。
 
 たとえば車のナンバープレートにはEUナンバーであることの表示があり、青いEU旗の下に各国の国号のイニシャルが記されている(ドイツは「D」)。以前紹介したことのあるサマータイムも全EUにかかる事項で、現在その有用性が欧州委員会で議論されているところである。入国管理でEU市民と非EU市民が別扱いなのは欧州の空港に着けばすぐに分かるし、教育では欧州共通の単位制度や統一的な語学力基準なるものまで存在する。日常生活でEUから切り離されている領域は皆無と言ってよい。欧州統合という現象は決して外交、国際政治の文脈だけでとらえ切れるものではない。国家を超越した立法、司法、行政が確かに脈を打って息づき、市民生活の末端に至るまで規定しているのである。
 
 ドイツの2ユーロ通貨の側面には、以下のような文字が彫られている。
 
  Einigkeit und Recht und Freiheit(統合、法、そして自由)
 
 「主権国家」という概念は400年前にこの欧州の地で生まれた。今その概念は同じ欧州の地で静かに、着実に崩れつつある。この大陸の人々は、革命も戦争もなしに、幾十年の月日にわたる不断の努力を通じて、分厚い国家主権の壁に慎重に穴をうがち、現在の欧州の姿を築きあげてきたわけである。出来上がってしまえば簡単に見えるかもしれないが、その世界に類例を見ない機構を設計する規定の細部一つ一つには、先人達の汗と知恵と意志が滲んでいる。その結晶たるユーロに刻まれた文字は、彼らの自負と誇りの象徴と言ってよい。

 街角でこの長い営為の様々な成果のかけらを目にするたび、頭の下がる思いがする。
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EUの存在感(2)

 さてこのVW法は2005年、EU委員会により「資本移動自由化」を定めたEC条約第56条に違反するとの指摘を受け、ブリュッセルにある欧州司法裁判所に司法判断が付託されていた。そして先月の23日、欧州司法裁判所はVW法は条約違反であるとの判決を下したわけである。
 
 この判決によりPorsche社のVW社に対する経営支配が決定的になり、自動車業界の大再編が実施される見通しとなっている。同判決自体は判例に沿ったものであり、Porsche社もそれを見越して株を買い集めていたので、判決自体の内容が特に目新しいものであったわけではない。

 重要なのは、同判断によってVW法が実質的に無効化されたということである。EC条約は名前こそ条約となっているが、各加盟国内の私人にまで直接効を有し、その法的効力についての解釈は欧州司法裁判所が専管的に行うため、仮に今後ドイツ国内でニーダーザクセン州が「VWの買収はVW法違反だ!」と訴えたところで、ドイツの国内裁判所は、EC条約の効力にかかる領域に関しては原則として欧州司法裁判所に判断を仰がねばならず、またその判断を反映する義務があるため、同州の訴え2bcc5c10jpegが認められる可能性はないのである。その意味でVW法の買収制限規定は、国内法的にも、既に死んでいるわけである。 

 EC条約および欧州司法裁判所の機能は、普通の国際法で言うところの条約や国際司法裁判所とは、かなり趣を異にしているわけである。
EC条約下で国家と独立したEU委員会やEU議会が様々な決定を行っている(当然これらの決定の解釈は欧州司法裁判所が行う)姿と合わせみた時、この地域ではすでに古典的な国家主権は溶解してしまっているといって良い。(左上は欧州司法裁判所。)

EUの存在感(1)

 先月の話だが、ポルシェ(Porsch)社のフォルクスワーゲン(Volkswagen,VW)社買収に関し欧州司法裁判所が下した判決が当地の紙面を賑わせた。日本でもそれなりに報道されたようなのでご存じの方も多いかもしれない。

 フォルクスワーゲン(Volkswagen)社は言うまでもなくドイツを代表する自動車会社で、直訳すると「国民車」となる。ナチス時代に国策会社として創立された歴史から伝統的に政府との関係が深く、現在でも海外企業による買収を阻止することを一つの目的とする「フォルクスワーゲン法」という法律が残存している。同社の本拠地(ヴォルフスブルク、Wolfsburg)が位置するニーダーザクセン(Niedersachsedn)州が株式の約20%を保有しており、前述の法律により吸収合等に関しては同州が事実上拒否権を発動できることになっている。

 フォルクスワーゲンはここ数年、フェルディナント・ピエヒ(Ferdinand Karl Piëch)会長の下で推進されたいわゆる「高級車路線」の失敗により、業績が大幅に落ちporsche_vw_DW_Wirts_195232g.jpg込んでいた。そこで敵対的な買収を未然に防ぎ、経営を立て直すことを目的として同社と歴史的につながりの深いポルシェ社が株を買い集め、今年の3月には株式30%を保有する筆頭株主に踊り出たわけである。ちなみにピエヒはポルシェの創業者フェルディナント・ポルシェ(Ferdinand Porsche)の孫に当たり、自身がポルシェの大株主でもある。(右はポルシェ、VW両社のロゴ。Welt-online HPより。)

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自己紹介:
三度の飯より政治談議が好きな30間近の不平分子。播州の片田舎出身。司馬遼太郎の熱狂的愛読者で歴史好き。ドイツ滞在経験があり、大のビール党。
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