さてこのVW法は2005年、EU委員会により「資本移動自由化」を定めたEC条約第56条に違反するとの指摘を受け、ブリュッセルにある欧州司法裁判所に司法判断が付託されていた。そして先月の23日、欧州司法裁判所はVW法は条約違反であるとの判決を下したわけである。
この判決によりPorsche社のVW社に対する経営支配が決定的になり、自動車業界の大再編が実施される見通しとなっている。同判決自体は判例に沿ったものであり、Porsche社もそれを見越して株を買い集めていたので、判決自体の内容が特に目新しいものであったわけではない。
重要なのは、同判断によってVW法が実質的に無効化されたということである。EC条約は名前こそ条約となっているが、各加盟国内の私人にまで直接効を有し、その法的効力についての解釈は欧州司法裁判所が専管的に行うため、仮に今後ドイツ国内でニーダーザクセン州が「VWの買収はVW法違反だ!」と訴えたところで、ドイツの国内裁判所は、EC条約の効力にかかる領域に関しては原則として欧州司法裁判所に判断を仰がねばならず、またその判断を反映する義務があるため、同州の訴えが認められる可能性はないのである。その意味でVW法の買収制限規定は、国内法的にも、既に死んでいるわけである。
EC条約および欧州司法裁判所の機能は、普通の国際法で言うところの条約や国際司法裁判所とは、かなり趣を異にしているわけである。EC条約下で国家と独立したEU委員会やEU議会が様々な決定を行っている(当然これらの決定の解釈は欧州司法裁判所が行う)姿と合わせみた時、この地域ではすでに古典的な国家主権は溶解してしまっているといって良い。(左上は欧州司法裁判所。) PR
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