忍者ブログ

望雲録

のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲が輝いているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


連立と解散権と安定政権(2)

 少し話がそれたが、ここでのポイントは何より首相の「解散権」にあることを強調しておきたい。

  政府首班がいつでも議会を解散できるという制度は元来二大政党制に親和的であり、大陸的な多党制にはそぐわない。多党制で解散権を導入した場合、与党内で政治闘争が発生する可能性が増大し、政権運営が極めて不安定になるからである。
 「ここで総理を追い込めば解散に持ち込めるかもしれない」という思惑を与党第二党が常に有しており、与党第一党も「すきあらば解散して政権から叩き出してやる」と考えている。選挙になれば当然お互い異なる主張を持つ政党として相互に票を奪い合うわけだから、お互いできるだけ自分に好都合なタイミングでの選挙の可能性を模索することになる。与党第二党には常に「連立離脱」という選択肢があり、政府首班を出している与党第一党を威嚇できる立場にある。こうした状況では政策をめぐる議論が容易に政局に転化し、安定しようがない。とりわけ大連立のように第一党、第二党の勢力が拮抗している場合、この傾向は顕著となる。
 従って今の日本で大連立が成立したとしても、それが中期的に安定したり、現実的なオプションとして定着することは難しいと考えるのが自然である。

 したがって、多党制を志向する国、すなわち潜在的政治対立を政権内に内包する連立政権が基調となる国で、安定的な政治を実現するには、政府首班の無制限の解散権を認めないことが肝要になる。政権に参画する政党全てに次期総選挙までの一定期間、与党としての地位―政治的休戦といってもよい―を保証するという時間面での措置を通じて、政権運営の安定性を補完することが不可欠となるわけである。政権の存続が時間的に固定されてしまえば、次の選挙が近づくまでは目の前の政策課題を議論し、交渉し、妥協する方向にエネルギーが注入されやすくなるのである。

 一方、二大政党制下の解散権は政権の安定に寄与する。

 通常二大政党制で政府首班が解散権を行使する場面は、すでに与党が単独多数を占めている以上、野党に向けられるものではなく、与党内、与党・政府間の政治的対立を国民の審判により解消することを意図したものである。解散決定権が終局的に政府首班に帰属する以上、基本的に二大政党制下の解散権は、政府が推進する政策に対する与党議員造反への強い威嚇効果を持つ。首相への国民的支持が高い場合この傾向はより顕著になる。
 逆に、野党の牽制がよく効いている場合、首相が与党内の権力抗争で「追い込まれ解散」する場合は少ない。首相が追い込まれる形で選挙になると、せっかく確保している多数を野党に奪われるリスクが非常に高くなるため、与党議員は不用意に政府を追い込めない。総辞職による与党内政権交代を迫る場合でも、捨て鉢で解散権を発動されるリスクは高い。従って支持率が低い首相であっても、解散権は与党議員の協力を促す方向に傾く。
 
 以上のように二大政党下の解散権は、通常、政府が与党を従属させ、政権運営を安定させるための抑止力として機能する。そして「抑止力」である以上、実際に解散が乱発され政治の安定性を失わせる方向に機能することは少ない。
 この点、郵政解散における小泉総理は解散権の本質的機能を非常によく見抜いていたわけだが、逆にいわゆる「抵抗勢力」側の議員はその正確な理解を欠き、選挙の第一公約を推進する国民的支持の高い総理に楯突くという愚を犯した(もっとも衆議院では抑止力が効いたと言えるが)。結果抑止力であるはずの解散権が実際に発動されてしまい、不自然に歪んだ議席配分を招くことになってしまった。民主党こそいい迷惑であった。

 日本の解散権は、55年体制という特殊な政治システムの文脈に強く依存している。自民党は中選挙区制下の「疑似多党制」としての派閥政治の力学から頻繁に首相が―往々にして「追い込まれ」―衆議院を解散した。野党第一党である社会民主党による政権交代の可能性が想定されておらず、その牽制が全く効かないという特殊な条件があったので、派閥領袖は安心して権力闘争に奔走することができたのである。90年代の政治においても、解散権は旧来型の理解の延長線上で捉えらえ行使されてきた。また「審議拒否」をはじめとする、政策議論ではなく国会運営手続きで対立を「演出」するという独特の政治慣習(これも万年野党の社会民主党が苦肉の策として発展させてきたものである)が、閉塞状況の打開策としての解散の意義を強めた。そうした中、小泉総理は政府首班に与党を従属させる手段としての解散権の意義を極めて明確な形で実証したといえる。

 解散権というシステムが日本の議会制度にビルトインされている以上、日本政治の安定という観点からは、小選挙区制の維持を通じた二大政党制の促進は一応セオリーに則ったものであると言える。もちろんこれは参議院問題その他数多くの問題を解決する万能薬ではない。
PR

COMMENT

Name
Title
Mail
URL
Color
Emoji Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Comment
Pass   コメント編集用パスワード
 管理人のみ閲覧

TRACKBACK

Trackback URL:
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
HN:
Ein Japaner
性別:
男性
職業:
趣味:
読書、旅行
自己紹介:
三度の飯より政治談議が好きな30間近の不平分子。播州の片田舎出身。司馬遼太郎の熱狂的愛読者で歴史好き。ドイツ滞在経験があり、大のビール党。
[12/16 abuja]
[02/16 einjapaner]
[02/09 支那通見習]
[10/30 支那通見習]
[06/21 einjapaner]

Amazon.co.jp

Copyright ©  -- 望雲録 --  All Rights Reserved
Designed by CriCri / Powered by [PR]
/ 忍者ブログ