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望雲録

のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲が輝いているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。

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政治の「輝度」

 一度書き始めると記事が長くなってしまって情報の鮮度が全く失われてしまうのがこのブログの悪いところだと思うので、ちょっと連載を中断して簡単に米大統領選におけるオバマ氏の勝利について書いておきたい。

 この夏英国に滞在していた折、オバマがベルリンで演説したことについては既に触れたが、その際英国の新聞が「陰気なイメージの政治屋達にあきあきしているドイツ人にとって、オバマは輝けるスーパースターのように映っている。」と解説していたのが不思議と記憶に残っている。

 ドイツメディアの大統領選への注目ぶりには驚かされる。4日の夜には(もちろん深夜で枠が空いていたこともあろうが)多くのテレビ局が朝まで選挙特番を組み、開票結果を各州ごとにリアルタイムで速報していた。ニューヨークやシカゴ、ワシントンといったアメリカの主要都市はもちろん、パリやモスクワ、テルアビブまで中継で繋いで、街頭インタビューや各国の反応を報道するという熱の入り方で、正直自分の国の選挙より関心が高いんじゃないのか?と思わせるような騒ぎだった。

 オバマの勝利が確定すると、テレビやラジオは"Amerika hat eine Geschichte geschrieben!"(アメリカは歴史の一ページを刻んだ!)といった表現で興奮を伝え、選挙結果の分析、オバマ新政権の課題、各国の反応などを矢継ぎ早に繰り返し報道した。文字通りオバマ一色である。

 ただ今日の朝刊はまだ結果を伝えていない。代わりに政治欄を埋めていた記事は、ヘッセン州のSPD(社会民主党)党首が、従前の選挙公約を反故にし、左翼党との連立政権を樹立しようとした試みが、議会での議決前日に突如党内の造反により失敗したこと、国土交通大臣がDB(ドイツ鉄道)社長に不適切なボーナス支払いを承認したことを巡り、大臣が保身のため虚偽の発言をした疑いをかけられていること、9月のバイエルン州選挙で大敗北を喫したCSU(キリスト教社会同盟)の新党首が、失地回復のためか相続税改革で強硬に税控除枠拡大を主張していること、などであった。

 ふと、オバマ勝利に湧くテレビを横目にドイツ人はどんな気持ちでこうした新聞記事を読んでいるのだろうか、と思った。

 ドイツ政治の質が低いということではない。ただそれは「夢」「希望」「変化」といった単純な言葉で国民を感動させられる類の、いわば劇場型の政治ではない。「政治とは、情熱と判断力の二つを駆使しながら、堅い板に力をこめてじわっじわっと穴をくり貫いていく作業」というヴェーバーの言葉を地でいくような、駆け引きと妥協と意志と忍耐の政治という印象が強いのである。政策の争点もよく整理されていて、細かな数字も含めてしっかりと詰まった議論が展開される。よくも悪くも「成熟」した、鈍い光を放つ燻し銀の政治である。
 政治好きのドイツ人はおそらくそういう玄人好みの政治も別の意味で楽しんでいるし、ある程度信頼しているようにも見える。しかしそうした政治は、どうしても暗く、重いイメージを免れることはできない。

 今回の大統領選はとりわけそうだが、アメリカの政治には華があり、夢があり、明るい希望のイメージがある。たとえば歴代大統領のスピーチ一つを取って見てもそれは明らかで、同じ内容をこちらの連邦議会でメルケル首相が(しかもドイツ語で)話そうものなら、国民の失笑を買って早速朝刊の風刺画の格好の餌食にされることだろう。

 政治の「輝度」とでもいうのだろうか。ドイツ人は自分たちの暗さを自覚しつつも、どこか「輝けるもの」への強い渇望を潜在的に抱いている国民である。たまには小難しい理屈や底意地悪い皮肉を抜きにして、明るい太陽の光を目一杯楽しんでみたい。彼らがこれだけ海の向こうの大統領選に盛り上がっている背景には、アメリカ政治のカラリとした明るさに対するひそかな憧れが隠れているのではないだろうか。一向に晴れ間の見えないドイツの冬空を眺めながら、そんなことを考えた。

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読書、旅行
自己紹介:
三度の飯より政治談議が好きな30間近の不平分子。播州の片田舎出身。司馬遼太郎の熱狂的愛読者で歴史好き。ドイツ滞在経験があり、大のビール党。
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