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望雲録

のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲が輝いているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。

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壊れたアンテナ

 五十五年体制下に全盛期を謳歌した守旧派の政治家たちは、「国民の代表」「国民の声」という言葉が大好きだ。この言葉の裏には色んな含意があるのだろうが、一つには常日頃から国民と直接対話する機会をふんだんに持つことで、国民の要望を吸い上げ、その感覚を理解し、民主主義におけるパイプ役を果たしているという自負、二つには、少しシニカルな見方だが、政策形成能力を霞が関に全面委託してきた劣等感の裏返しでもあるのだろう。

 自民党の長期政権の下においては、それで大きな問題はなかった。対抗勢力のいない永田町を拠点に社会のあらゆる分野に触手を伸ばし根を張ってきた自民党にとっては、「(与党である)自民党支持者の声」と「国民の声」に大きな「ズレ」はなかった。その意味で地元で自らを囲む支持者たちの声に真摯に耳を傾け、彼らに素朴な利益を斡旋仲介してやれば票は獲れた。豊かな日本の経済成長の果実が、その歪んだ構造を可能にした。

 この「ズレ」はすでに90年代の初めから少しずつ明らかになり始めていたのだと思う。ただ、自民党の死が突然ではなく実に緩やかに進行したことが、これら政治家に事態の深刻さを気付かせる契機を奪った。一部の鋭敏な感覚を持つ政治家たち―それは大抵政策に通じ、党内で異端と捉えられていた政治家たちである―は、この地殻変動に気づき、「改革」を試みたわけだが、党内政治においてそれは大きな支持を広げるに至らなかった。結果、昨年の夏、自民党は劇的な形でその報いを受けた。

 民主主義が選挙民の「声=票(Stimme)」を巡る闘争である以上、その「声」への感度を失った政治が生き残る術はない。そしてその感性でもって社会のあらゆる領域の「声」を掘り出し、組織化することで自己の権力基盤の強化につなげていくのが
五十五年体制下の自民党の真骨頂だったわけである。
 しかし今の自民党は、これだけ明白な形で国民から否を突き付けられた後でも、相変わらず自分たちと運命を共にする(あるいはしてきた)支持者たちの声にしか耳を傾けていない。悪いことに先の選挙で生き残ったのが守旧派の政治家ばかりだったこともあり、捻じれた成功体験が党全体としての世論への感度を鈍らせてしまっている。


 この落胆は今回の「与謝野新党」の動きを見て一層深いものになった。厳密にいえば彼らはもはや自民党の人間ではないのだろうが、彼らの行動を支える内在的論理はやはり五十五年体制下の政治家のそれだと言えよう。彼らは財政再建のための増税や郵政民営化という、五十五年体制を象徴するような政策軸の相違を棚上げにして、「新党」の響きだけで国民の声を得ることができると本気で考えているのだろうか。

 「第三極」という言葉で非自民、非民主の新党を立ち上げればどこからともなく「風」が吹き、国民の支持が得られると思っているのなら、それは大きな過りである。「みんなの党」が支持を集めているのはそれが単なる「第三極」だからではない。自民でも民主でももはや実現を期待できない新保守・新自由主義的の単純明快な政策の対立軸を固め、小泉構造改革路線の唯一の継承者としての認知度を高めているからである。

 政策的にいえばまさしく与謝野氏と谷垣氏との間にほとんど違いはない。二人とも小泉政権では財務官僚寄りの財政再建派として存在感を示していた。平沼氏はお馴染み反郵政民営化の旗手であり、国民新党に合流すべき位置づけである。

 自民党の政治家達が今力を注ぐべきは、自分たちのアンテナの故障を正面から認め、野党としての新たな票田を求めて再チューニングを行うことである。国民が望んでいるのは90年代初頭のような上っ面の新党ブームや離合集散ではない。この国の古ぼけた権力構造を遥か天空から打ち落とし、地上
に叩きつけて粉砕することである。小泉政権の時代から連綿と続くこの大多数の無党派層のフラストレーションを未だ正面から受け止めることができず、ピントのずれた「第三極」を演出すれば票を集められると安易に考えているとしたら、この国の五十五年体制下の政治家たちが誇るところの「政治感覚」なるものの質も、もはや末期の状態にあると言わざるを得ない。

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自己紹介:
三度の飯より政治談議が好きな30間近の不平分子。播州の片田舎出身。司馬遼太郎の熱狂的愛読者で歴史好き。ドイツ滞在経験があり、大のビール党。
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