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望雲録

のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲が輝いているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。

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国会情勢など

 国会中継をぼんやり眺めている。参議院・予算委員会である。政府席には内閣総理大臣以下全17人の大臣がずらりと着席する。今日の議題は平成22年度補正予算案である。開催時間は9時から17時まで。当選1~2回の若い議員が総理や官房長官相手に一方的に質問を浴びせる。国務大臣側に反論の機会はない。答弁に対し正面から答えなかったり、反論したり、長々と自説を振るおうものなら、すぐさま「やめろ」「聞いてない」「質問にだけ答えればよい」と野次が飛ぶ。質問の内容は、と言えば、補正予算案の内容を精査するものでは全くない。人権について聞くもの、就職支援について聞くもの、尖閣について聞くもの、TPPについて聞くもの、種種雑多である。もちろんもっとも盛り上がるのはくだんの法務大臣辞任問題である。予算委員会はNHKの中継がなされる場合も多い。補正予算案の審議においては少なくとも2週間(衆参一週間ずつ)、ほぼ毎日この委員会が開催される。答弁する大臣もしない大臣も一律に行儀よく着席し、質疑に対応せねばならない。当然のことながら予算委員会の開会中、行政の長としての大臣の機能はほぼ停止する。役人たちは早朝夜に必死で予定を詰め込むが、絶対的な時間がどうしても不足する。

 如何ともし難い、日本国憲法第63条には、国務大臣の国会出席義務が定められている。国権の最高機関たる国会に呼ばれた国務大臣はそれを拒むことはできない。議院側の「理解」と「寛容」によって、記者会見や外交日程のための短時間の退席を認められるのがせいぜいである。一日8時間、仮に自分に関連する質問が一つもなかったとしても―そういうケースは決してまれではない―大臣は議院に拘束される。通常国会では、これが一か月近く続くこともまれではない。

 行政府の長たちを顎ひとつで呼びつけ、テレビの前で一方的に糾弾しつるし上げる快感と政治的意義は、日本国憲法の該当条項を基盤に55年体制下で培われてきた野党対策の一環としての側面が強いのだろう。万年与党たる自民党政権は、圧倒的な数の優位を背景に、野党に対して様々な議事手続面での対抗手段を許容してきたが、いわゆる「大臣総取り」、「一方向質問権」、「質問内容の非拘束」等々、議会の行政府への優位を象徴するような様々な規定は、その重要な一翼を担ってきたのだと思う。

 政権与党の力が絶対的な時代は、それでもよかった。しかし政権交代が現実のものとなり、「ねじれ」が常態化する中で、これらの制度慣習は国会の「会期制」の問題と並んで、野党にとってアンバランスに有利なシステムとなってしまった印象がある。

 柳田大臣の発言は少なくとも「脇が甘かった」とは言えよう。その大臣としての資質を特に擁護するつもりもない。ただ、地元に帰った時に自虐がてらに「二つの答弁があれば済む」と放談するその心境の裏には、不必要に国会に貼り付けられ、詐欺と恫喝まがいの質問者相手に「忍」の一字でただただ低姿勢の答弁でやり過ごさざるを得ず、結果として十分に所管分野の政策を遂行する時間を確保することもできない、大臣たちのやり場のないフラストレーションの蓄積があるのだと思う。「国会軽視」の美名の下、本来国民に対して全面的に投入されてしかるべき様々な行政リソースが、半ば無駄な形で立法府というブラックホールに投下されている現状については、もう少し広く問題意識が共有されるべきであると思う。

 それは確かに巷間言われるところの「民主主義のコスト」ではある。ただコスト大きさゆえに国が倒れてしまっては本末転倒である。
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三度の飯より政治談議が好きな30間近の不平分子。播州の片田舎出身。司馬遼太郎の熱狂的愛読者で歴史好き。ドイツ滞在経験があり、大のビール党。
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