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望雲録

のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲が輝いているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。

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元首の政治利用(2)

 権威や権力は、通常、個人の意志と主張の発露によって獲得されるものである。意志なきところに人を動かす力は発生しえない。それが、政治学的な理解であり、恐らく西欧での常識であり、ドイツの大統領制を理解する上での基本公式である。
 
 しかし、天皇制はそうした公式に当てはめて理解することが難しい。すでに「神聖なる『空』」という言葉で説明したとおり、天皇制は、天皇の個人的人格が後退し、「希薄化」されるほど、天皇自身の権威が増すという、一種の逆説の上に成り立つ制度である。希薄化とは、言い換えれば、天皇の生身の人間としての存在感が後退し、日本国民の総意が、ふさわしい望ましいと思う在り方へと、天皇が私を捨て去り、自身を昇華していくプロセスと言える。
 それは「何もしない」ということによって達成できる作業ではない。とりわけ、歴史性というカリスマを持ち得なかった今上陛下は、何が一体象徴としての自身の在り方なのか、どこに「国民の総意」があるのかを、試行錯誤の中で探し求めねばならなかった、戦後憲法下の初の天皇である。陛下は「中立性」「公平性」「弱者へのいたわり」と言った概念に依拠し、「希薄化」を行ったが、結果としてそれは大きな成功を収めた。戦後民主主義に適合的な「神聖なる『空』」の領域を再発見したと言ってよい。
 
以上は、以前書いたことと同じである。
 
 さて、「一ヶ月ルール」は、それ自体、確かに枝葉末節の制度である。
 しかし、そうした枝葉末節の制度の中にも、陛下が即位後積み重ね築き上げてきた領域の根幹に触れる論点が内在している。
 「一ヶ月ルール」の本旨は陛下の健康を守ることにあるのではない。単に陛下の健康状態が問題なら、小沢幹事長の言う通り、その都度判断して柔軟にスケジュールを組めば良いだけの話である。しかし、そうした恣意的な運営では「不公平が生まれかねない」ことを危惧し、あらかじめ一ヶ月というラインを設けることで、予測可能な過密でないスケジュールの構築、透明で公平な要人応接という二つの要請を両立させることがその趣旨であった。
 そこには制度の趣旨として、明確に「公平性」を担保するという意図があり、そういう意図のもとに厳格に運用され、恐らくその下で陛下との会見が叶わなかった要人たちが存在するのである。そしてこの「公平性」という要素は、現在の天皇制を支える重要な価値観の一つとなっているのである。
 
 この「公平性」の価値観は、「重要性」という価値観と、鋭い緊張関係にある。恐らくこのことが、問題の核心である。
 
 中国は、重要である。習近平副主席を厚遇することの意義は、日本の国益にとって決して小さくはない。時の政府が、上述した緊張関係を踏まえた上で、敢えて「一ヶ月ルール」と将来の中国の指導者とを天秤にかけるという試みは、高度な政治判断として、十分にあり得る。天皇制も、つまるところは日本国のために存在する制度である。皇室が日本にとって強力な外交ツールである以上、日本の国益に適う形でその活用を考えることは、国政の責任者として当然である。
 
 それは大きく言えば「天皇の政治利用」である。ただそれ自体は政策判断の問題であり、「政治利用」そのものが直接批判されるべき問題なのではない。有体にいえば、事実上の国家元首である以上、100%政治から自由な立場でいられるわけなどなく、そういう意味で純粋な政治的中立性なるものを天皇制に期待するのは不可能だし、すべきでもない。
 
 しかし「政治利用」には常にリスクが伴う。もちろんその程度にもよるが、「政治利用」は時に天皇に生の人間の臭いを纏わせ、時に天皇を単なる傀儡に貶め、そして時に天皇制の根幹となる価値を歪ませる。これらはいずれも神聖な「空」の領域を侵犯し、天皇の権威をおとしめる。場合によっては天皇制そのものを致命的な形で傷つけかねない。天皇を政治的に利用しようとする政治家は、そのリスクを常に念頭に置き、政治利用により得られる国益と天皇制へのダメージとを天秤にかけ、それを見極める必要がある。
 
 そして政治利用を決断し実行するに当たっては、当然、天皇の政治利用を懸念する世論―今の日本では非常に強い勢力を持っているが―に対し、極めて慎重に、時間をかけて、政策の意図を浸透させ納得させるだけの技量と覚悟と忍耐が求められるのである。
 
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読書、旅行
自己紹介:
三度の飯より政治談議が好きな30間近の不平分子。播州の片田舎出身。司馬遼太郎の熱狂的愛読者で歴史好き。ドイツ滞在経験があり、大のビール党。
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