「期限による安定」も、零細政党が乱立する状況ではその効力を減殺される。政権政党の数が増えるほど、連立組み替えによる政権交代の可能性が向上するからである。通常、比例代表制では多様な民意が尊重される代わりに常にこうした不安定を覚悟せねばならない。ドイツ基本法はこれを5%条項と建設的不信任案の二つの防壁で防ぐことを意図しているわけだが、実際の政党システムが果たしてきた役割も大きい。
現在連邦議会に進出している会派は5つに限られる。キリスト教民主同盟/社会同盟(CDU/CSU)、社会民主党(SPD)、自由民主党(FDP)、緑の党(Die Grünen)、左翼党(Die Linke)である。緑の党は右派的な環境運動と68学生運動の流れを引く左派人権派がまとまる形で結成された政党で、連邦議会には1983年に進出した。左翼党は旧東ドイツの独裁政党であったドイツ社会主義統一党(SED)等を基盤として結成された政党で、2005年に連邦議会に進出、現在では旧西ドイツ各州議会にも議席を伸ばし始めている。(右は各政党のシンボルカラーに即した議席配分。)
歴史を振り返ってみると1949年の第一回総選挙から1983年の第十回総選挙までの間、ドイツはいわゆる21/2政党制と称される通り、基本的にCDU/CSU、SPD、FDPの3会派しか存在せず、これらが選挙のたびに連立を組み換えながら政権を構築していたわけである。基本的に戦後ドイツでは全ての政権が連立政権である。規模の違う2政党による連立は安定しやすい。つい最近まで機能していたこの連立システムがドイツ政治の安定のもう一つの秘密であると思う。
ちなみに建設的不信任は実際のところはなかなか発生しない。先に述べたとおり、解散総選挙によって国民の信が問えない状態で、一旦政策協議を経て連立を組んでしまった二政党が連立を解消し、昨日まで与野党として対決していた政党と連立を組みなおすのは、よほどの亀裂が生じない限り政治的に困難だからである。実際にこのシステムを通じて倒閣が成功したのは、FDPの連立組み替えによる1983年のシュミット政権(SPD)からコール政権(CDU)への移行のただ一度のみである。これはこの制度の功というよりはドイツの政党システムの成果といった方がよい。
現在ドイツでは上述の政党によるいわゆる「5政党システム」が定着しつつあるのだが、これは5%条項が十分に効果を発揮できていないという指摘がある。確かに5つの政党というのはやや過剰なきらいがあり、CDU/CSUとSPDの二大政党が小規模政党(大半がFDP)と連立して2政党による連立政権を構築するという、従来一般的であった連立パターンが成立しにくくなってきている。
2005年の第16回総選挙はそうしたドイツ政党システムの変質を最も如実に示した選挙であり、その結果としてメルケル首相下の大連立政権が誕生するのである。PR
COMMENT