日本人のドイツ・イメージは陽気なものではない。
これについては2003年に電通が実施している
「日本におけるドイツのイメージ調査」が興味深い。それによると、日本人がドイツと聞いて最初に思い浮かべる言葉で、第一位はビールだが、第二位はナチスとヒトラー、そして第三位はベルリンの壁という回答だったという。同様の調査でフランスについては戦争のイメージが皆無であるのと比べると、ことのほかドイツは戦争、軍事のイメージが強い。
それは先の戦争で同盟国だったこともあり、戦前の日本イメージと重なる。司馬遼太郎は『この国のかたち』(第3巻)で「ドイツへの傾斜」と題する一文を書いている。そこでは、明治以来の帝国陸軍のドイツへの傾斜をとらえ、それが昭和前期の破滅的な歴史を招いたとして、痛烈に批判する。
「…昭和の高級軍人は、あたかもドイツ人に化ったかのような自己(自国)中心で、独楽のように論理だけが旋回し、まわりに目をむけるということをしなかった。」(P28)
司馬はドイツそのものを話題にすることが少なかったため、この文章は司馬のドイツへの否定的イメージが凝縮されているかのような観がある。ドイツは、旧帝国陸軍のモデルであったという事実を通して、そして何よりファシズムという不名誉な連帯の歴史によって、戦前日本とその軍事的な負のイメージを共有する。
ちなみに上述の調査ではフランスやイタリアとの比較ではドイツは勤勉、保守的、寡黙、技術力などの項目が比較的高いポイントを得ている。軍事国家のイメージと相互補完的だが、こうした価値観は「古い」型の日本人のイメージによく符合している。この面でもドイツ・イメージは日本の過去と結びつく。
軍事国家にせよ保守的な人間像にせよ、日本人はドイツという国を思い浮かべる際、どこかで無意識に過去の自己イメージを投影しているのではないだろうか。そしてそれだけに現代ドイツの姿を同時代の目線で並行的に直視するという感覚は少ないように思われる。もっとも、これは私が過度にドイツの歴史的、政治的側面に傾斜しすぎているからで、芸術家や技術者の方は、また異なる印象を持つのかもしれないが。
ともかくもドイツは常に色濃く歴史を背負っていて、それだけに陰影が深い。
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